第3章 私の「年の差」結婚[4]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 7月 14日 ]

言いたいことは全部言う

「以心伝心」という言葉は、日本でなら会社でも家庭でも通用する。いちいち説明せずとも目と目で理解しあおうという、日本的なコミュニケーションの方法である。中国から来たと思ったら間違いだ。中国人にこの4文字を書いて見せても、たいてい首をひねる。
同じ意味なら「心有?犀一点通」(心と心が通じ合う)あたりがぴったりくる。
中国人に取っては、言いたいことは相手に全部言うのが当たり前である。もちろん家庭でも同じだ。
こういうストレートな物言いに慣れることができないのは私だけではなさそうだ。1997年に日本から上海に出張、そこで今の奥さんと知り合った神奈川県在住の会社員、松本文正さん(34)も、そう感じている。
大学時代から中国に関心があった松本さんは、四川省出身の奥さんと暮らしていて戸惑うことはそう多くはない。ただ、夫婦喧嘩をすると心の中のことをいっぺんにぶちまける。お金の使い方、休日の過ごし方、家の中の細々としたこと。日頃少しずつたまった不満を爆発させる。
松本さんはおとなしい性格なので、気圧されてしまうが、嵐が通り過ぎるとケロっとしている。「四川省の気質なのかもしれませんが、熱しやすく冷めやすいようですね」。
奥さんは4歳の子どもを通して日本人の友達も多い。むしろ「日本の女性はため過ぎ。何でも言わないと解決にならない」と話しているとか。そういう点では、アメリカ人と感性が近い部分があると感じている。

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愛国教育

私は中国人の女性と結婚する前、日本をどう思っているのか少々不安だった。それは中国では「愛国教育」というものが行われているからである。たとえば、ハルピン郊外にある731部隊の跡地も愛国教育に使われる基地の1つだ。
数年前、妻とここを訪ねたことがある。模型で当時が復元されているのだけれども、それは目を覆う内容だった。たとえば人体実験を行う様子がリアルに人形で再現されている。本当にここまでやったのかと思わせる。
妻も驚いた様子だった。私も彼女も言葉を交わさなくなった。そこにどやどやと中学生らしき生徒の一群が入ってきた。生徒たちも比較的静かに見ていた。見学を終えた後、建物の外に出た。それとなく妻にどう感じたか聞いてみた。彼女は「昔のことは昔だから」と言う。本心なのか分からなかったが、少なくとも私にはそう言った。
愛国教育については、「反日解剖」(水谷尚子著文藝春秋刊)が詳しい。この本によれば、2005年の時点で全国に愛国教育の基地は205カ所ある。さらに地方自治体のレベルになると数千になるという(同書)
さらに、抗日記念館のような日本と戦ったことを記念する展示館も1直轄市14省2自治権にまたがってある。実は私の妻の故郷にも、規模の大きな抗日記念館がある。
今の中国の人たちは、こういった愛国教育を頭から信じている訳ではない。権力を握っている共産党の不正、腐敗も強く批判している。中国人=反日と考えるのは誤りだ。
むしろ共産党への不満をそらすために反日を利用していると考えた方がいい。最近は、中国の日本を批判する発言や行動が、かえって日本で、反中国感情を勢いつかせると分かってきたため、反日を野放しにすることは減ってきた。
中国は、未だにマスコミに完全な自由がない。さまざまなレベルで当局の検閲を受けている。だから口コミ社会になっている。
そういう意味で中国人女性が日本に実際に来て、家庭生活を送ることは、中国にとっても意味があることだと思う。

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小さな中華思想

もともと中国という国の名前には「世界の真ん中の国」という意味が込められているという。これが中華思想と呼ばれるものだ。
人の往来が活発になっている今の世の中、「中華思想」などあるはずがないと思っていたが、意外にも妻の発言から、それを感じることがある。
たとえば、韓国に関するテレビ番組を見ていて、「大韓民国」という国名が出てきた時のこと。「あんなに小さい国なのに、大がついているのはおかしい」と言う。日本人についても「こんな小さな国に、どうしてこんなにたくさんの人間がいるんだ」などという率直な感想を漏らすことがある。
中国の指導者は、よく自分の国のことを「世界最大の発展途上国」と言い、自国が抱える矛盾を認めることがある。
しかし国民は、中国は米国に対抗するアジアの大国だという意識がなかり植え付けられているような気がする。
一方で、とても敏感に反応する言葉がある。日本語の「馬鹿野郎」もしくは「馬鹿」だ。中国ではなぜか「すらすら馬鹿」と使われることもある。
この単語は、中国の戦争映画で、日本人が中国人を罵倒する場面で使われる。日本語は人をののしる言葉が少ないので、
すっかり中国で有名になった。もし私が軽い気持ちで「バカだなあ」と口を滑らすと、妻は露骨にいやな顔をする。怒り出す時もある。見下されたと思うのかもしれない。
この誇りの高さは、中国の愛国教育が作り上げたものだろう。

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日本人との付き合いはうまくいかない

日本に来た妻には、日本人の友人をたくさんつくって欲しかった。そのため、妻の名前で簡単な名刺を作った。いろいろな会合にいつも2人で出かけ、友人に紹介した。
しかし、なかなかうまく行かない。彼女によれば、「日本人は打ち解けにくい」のだそうだ。昨日まで親しく話していても、今日になると突然表情が冷たくなる。そうだろうか。日本人は無意識に過ごしているところが、彼女には気になるらしい。
日本でもどうしても中国人の奥さんたちとばかり付き合うようになる。そうなると必然的に夫や日本社会への不平、不満になる。こちらとしては気が気でない。
一方で、彼女が日本に惹かれる部分もはっきりしてきた。それは、他の中国人女性とも重なるようだ。それは簡単なことだ。たとえば多種多様なシャンプーがあること。いろいろな会社が工夫した調味料を発売し、毎月のように新製品が発売される。
レストランに行けば、ウエイトレスが冷たい水を出してくれ、間違いなく注文した食事を出してくれる。もしも忘れてしまったら、きちんと謝る。国民が普通に政府を批判する。
そういったことが中国ではまだしっかり行われていないと妻は感動する。
日本は中国のようなダイナミックな経済成長もないが、静かで落ち着いている。実は日本の魅力は、そんな日常的な安定なのかもしれないなと思うのだ。


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