第6章 日本社会への順化は可能か[2]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 8月 1日 ]

国力のプラス要素に転換図る

外国籍の配偶者が急増しているお隣韓国は、偽装入国や結婚を取り締まっているだけではない。外国人を積極的に活用し、国力のプラスにしようとしている。そのために外国人政策を一本化し、地域にセンターを作って、韓国語や職業教育、生活の利便性向上に役立てている。さらに、無責任な国際結婚業者を駆逐するため、業者を登録制にした。
この章では韓国社会の現状を調べてみる。
韓国の国際結婚率は日本の3倍近い。2005年時点で13・6%。日本は2007年時点で5・6%だった。
婚姻率、出生率とも世界最低の水準で低く、国際結婚を認めないと、国の人口を維持することが難しい状態になっている。
韓国政府の女性家族部が全国の満19歳以上の男女千人を対象にしたアンケート調査「国際結婚移民者に関する国民意識調査の結果」によると、72・6%が「世界化の流れの中で、単一民族のみに固執する理由はない」と思っていた。結婚移民者に対しては79・4%が、好意的な態度を持っていた。
結婚移民者の社会適応に対しても回答者の94・3%が結婚移民者が隣りに住んだ場合、適応のために「手助けする意向がある」と回答した。
こういった社会の意識変化を背景に、韓国政府は1999年、結婚業を自由化した。これにともない700社だった国際結婚仲介業は3000社に拡大する。
最も結婚事例の多い中国人との結婚では、結婚にともなうビザ取得が簡素化された。
報道によれば、多文化家庭の子どもは、同い年の子どもより言語発達水準が相当に遅れている。
これらのことからソウル市は、2008年、ソウル在住外国人の日常生活の悩みを解決するため、外国人のための生活支援サービスセンター「ソウルグローバルセンター」を設立した。このセンターが、2008年4月から2009年1月まで3回にわたり市内の多文化家庭の2〜20歳の子ども75人を対象に言語発達状況を調べたことがある。
その結果、全体の74・7%に当たる56人が同い年の子どもより低い言語水準を示した。ソウルの外国人は約23万人で、ソウル市全人口の2・2%を占める。さらに国際結婚で産まれた子どもは7500人に達する。

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安山市の試み

韓国社会について封建的、排他的という印象が強い。私は1997年から4年あまり韓国に住んでいた。その時の印象も、まさにそういうイメージだった。
テレビドラマを見れば、父親の権限が絶対。家庭内では息子や娘の結婚をめぐってごたごたが続く。そんな内容ばかりだったと記憶する。
しかし、韓国社会は、かなりなスピードで変わっているようだ。外国人労働者の流入が続き、外国からの花嫁も増えている。2007年から韓国の民放「SBS」で放送された連続テレビドラマ「黄金の新婦」は、父を探しに韓国に嫁いだベトナムの少女の花嫁奮闘記で、視聴率20%を稼ぎ出した。具体的な数字は後で触れるが、もう外国人を「統制」するだけでは済まなくなっているのが実情だ。
なかでも、注目を浴びているのがソウルから車で一時間ほど離れた安山市である。
ここでは人口72万人のうち3万6千人が外国人。うち、結婚移民者が4029人。中国は24581人と圧倒的に多い。市内には中国語の看板を掲げた飲食店が多く、中国の東北部とみまごうばかりだ。
外国人支援センターがあり、外国人に無料で治療を行っている。またパソコン教育や多言語による通訳支援センターも併設されている。日曜日には顧問弁護士や社会保険労務士が、法律の相談にも乗っている。
2010年秋、私は実際に支援センターを訪ねてみた。30人が勤務し、支援活動を行っている。担当者の1人は「私たちの活動には常に矛盾がある」と話す。外国人を守るのが仕事だが、不法滞在者まで守ることにつながらないか
韓国では定住外国人には地方選挙権を付与している。そのため、政治家が外国人政策にとても熱心なのだそうだ。票になるからだ。さらに政府の援助金を目当てに、NPOが乱立。「多文化インフレ」が起きている。多文化事業の取り合いだ。
「韓国では民主化運動をしていた4、50代の社会的な成功者が、外国人支援に資金や自分の労力を提供している」ときょうとセンターの人はいう。「運動圏」と呼ばれるかつて学生運動をしていた若者が中年を迎えて社会の中核となり、市民運動にも積極的に関与している。日本で実現するのは簡単ではないだろう。

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仲介業者を届け出制に

韓国政府は外国人妻の増加に対して迅速に対応している。結婚移民者らの移住者を支援する目的で法律や社会システムを整備した。
2001年に設立した国家人権委員会の中にあった人種差別チームを、移住人権チームに改組し、国際結婚移民女性の問題に対応する体制を整えている。
結婚移住者の人権監視を強化し、ホットラインも設置した。
もっとも大きいのは、2007年9月に結婚斡旋業を届け出制にする規制法を制定したことだ。問題を起こした業者は、基本的に営業ができなくなる。
安山市だけではなく、他の自治体の取り組みも活発化している。2009年10月からソウル市は、外国人花嫁と結婚した男性には「新郎授業」を開き、これを受講すると日本円で10万円を支給している。
さらに女性に対しては、その人の母国語が分かる「産婦コンパニオン」がついて、妊娠出産する女性を助ける。
将来の就職を意識した高いレベルの韓国語教室も開設し、職業訓練も行うそうだ。
ソウル市には36532人の結婚移住者が住む。中国国籍28175人、ベトナム1657人、台湾1515人となっている。
結婚問題に詳しい財団法人日本青年館結婚相談所(東京都新宿区)の板本洋子所長は「韓国では、外国人花嫁がなぜ日本に来たかを詮索しない。来てくれたのだから歓迎して、彼女たちの能力を生かす社会を目指している」と話していた。
日本はその点、残念ながら総合的な対策がない。学校に行って、仕事をして、適応できないければ本人の責任と言われる。
われわれは韓国の取り組みから学ぶ点が少なくない気がする。

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関連法の整備

韓国は国際結婚に関して、日本よりも深刻な問題を抱えていることは分かっていただけただろう。これに対応して法整備を進めており、日本よりも総合的な対策を作りつつあるといってよさそうだ。
日本では、特に結婚仲介業に対して実質的に規制がなく、悪徳業者が野放しにされている。問題があれば噂になって、ネット上で告発される。これはこれで効果はあるが、無責任な批判も横行している。警察も行政も、片偽装結婚と思われるケースには「家庭内の問題」だとして手を出そうとしない。
韓国政府はどう取り組んだのだろうか。最初の一歩は、日本で実施されている外国人への「産業研修生制度」に似た制度をやめたことだった。これは民営または国公営の送出し機関から韓国に送られ、受入れ機関で技術などを学ぶ。過酷な労働をさせられながら、労働者として認められないなど二〇〇四年から、相手国と協定を結び単純労働者を受け入れる「雇用許可制」に移行したことだった。
外国人住民への公的支援をめぐっては、基本法となる「在韓外国人処遇基本法」(2007年)や「多文化家族支援法」(2008年)を制定し、合法定住者の尊重と能力活用を打ち出した。さらに、全国80カ所に「多文化家族支援センター」を設置。家庭訪問などを通じ、国際結婚家族を支援する仕組みだ。

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