第6章 日本社会への順化は可能か[4]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 8月 1日 ]

旺盛な向学心

この本を書くに当たってあちこちに連絡しているうちに、日本の大学院で学ぶ中国人の学生とも知り合いになった。日本の大学で学ぶ中国人の学生は増える一方である。
この20年間に日本の大学で学び、博士論文を書いた中国人は5000人を越えるという。日本の大学で教鞭をとる人も1000人を越えている。しっかりした日本語力と、日本社会への強い関心があるのだろう。
中国の国力に従って、日本企業も中国人を正式社員として雇い、戦力としているところが増えている。日本社会への中国人の貢献について、正当に評価し、生かしていく工夫が必要だと思う。
もちろん、本書でも触れたが、物の考え方、人の付き合い方では大きく違う部分もある。しかし、それを日本人の側が意識し、度量広く受け入れていくことこそ、日本の社会や企業が活力をつけるステップになると思うのだ。

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とけ込みにくい日本

日本に外国人女性が嫁ぎ、どんな生活をして、日本社会にどんな影響を与えるか、というテーマは社会学のテーマの1つである。大学の卒業論文にもよく取り上げられる。新潟のある大学の、昨年の卒論の中に「農村での国際結婚」をテーマにしたものがあった。
この中には、3人の外国人女性が登場する。中国人はいない。タイとフィリピン人だ。
日本に来て10年経った人たちへのインタビューが中心になっている。3人はいずれも「日本人はシャイだから、こちらが積極的に輪に入らないと仲間に入れてくれない」と感じていた。
3人とも行政も結婚サポート業者を介さない自由恋愛の結婚であり、当初、周辺の人々とまったくなじめなかった。むしろ「その国のもつイメージから、男性側の家族や地域から特別視されることが多かった」らしい。
重要なのは、なぜこの3人が地域にとけ込め、10年たった今も日本の生活にある程度満足しているかという部分だ。
フィリピン女性は、英会話の学校を地域で開いた。英語の通訳のボランティアもやっている。タイの女性は公民館で踊りなどのタイ文化を紹介する講座を持った。彼女たちが懸命に学んだのは日本語と料理だった。これが、家の中をうまく動かしていく要因だった。
結婚して、子供を持つことも重要だけれども、彼女たちの存在を積極的に生かす努力が、本人にも周囲にもあって、初めて日本の生活が楽しくなるのではないだろうか。

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小さい時から他民族教育を

最近日本でも「多文化共生社会」という言葉をよく耳にする。文化は結局溶け合わない。だから「他民族国家」を目指すべきだという意見もある。
いずれにせよ、外国籍の人たちが増えてきた日本では、彼ら、彼女らとともに生きることで社会の安定や活力につなげていこうという考えだ。
外国籍、特に南米系日系人の多い自治体は、「外国人集住都市会議」との名前を持つ連合体も組織している。
参加している自治体は、外国人住民に関係した施策や活動に関する情報交換を行っている。また首長会議を開いて、国・県及び関係機関への提言等を通し、地域に起きているさまざまな問題の解決にむけて取り組んでいるそうだ。
民間レベルでは、外国人を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)も生まれてきている。将来的には私もこういう仕事に携わりたいと思っている。
文化や習慣が違う人たちが1つの国で暮らすのは簡単ではない。それは歴史と現在の世界が物語っている。同じ国民であっても民族や宗教の違いから内戦が起きる例は、枚挙にいとまがない。
ちょっと理想主義的に聞こえる「多文化共生社会」という言葉は、個人的にはあまり好きではない。それでも、お互いを理解し合って、一歩あゆみ寄ればお互い得るものは多いのではないかと思うのだ。その第一歩として小学校から、他の民族の生活習慣を学ぶ授業を始めることを提案したい。

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夜間中学を日本語学校に

いろいろな国籍の母親と子供たちが増えるにつれ、日本語で日常会話が十分にできない、あるいは日常会話はできるものの、学校で学年相当の学習言語が不足しているために日本語指導が必要な外国人児童・生徒が日本の公立の小学校、中学校、高校、中等教育学校、特別支援学校の6212校に2万8575人在籍している。
2008年の、文部科学省の外国人児童生徒受け入れ状況調査で分かった。この調査を開始以来、最も多い人数だった。
小学校に通い、日本語指導が必要な子供は小学校で1万9504人、中学校が7576人、高校で1365人、中等教育学校で32人、特別支援学校で98人だった。全体で、前年度に比べ12・5%増えている。愛知県が5844人と最も多く、以下、静岡県の2903人、神奈川県の2794人、東京都の2203人、大阪府の1819人の順だった。
母語別ではポルトガル語が1万1386人、中国語が5831人、スペイン語が3634人となり、3言語で72・9%と全体の7割を占めている。全体の8割ほどが日本語の指導を受けているが、放置されている子供も15・1%いた。
文部科学省では日本語指導を行う教員などを小中学校などが配置した場合、給与の3分の1を国で負担するといったの措置を講じるなど、支援策を拡大しているが、追いつかないのが実情だ。
1000人移民計画を打ち上げている坂中氏は、こういった日本語教育のため夜間中学の活用を歌えている。私もこのアイデアに賛成だ。

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中国語を生かす

現在日本では、生まれてくる子供の140人に1人が中国系になっている。
両親か、両親のいずれかが中国人である夫婦の子供である。こういう子供たちと華人系の教会で会ったことがある。
日本語も流ちょうで日本の子供となんの変わりもないが、日本語を使った場合、親との自由なコミュニケーションができず、親子の断絶が生まれることがある。
教会で見た彼らは、まさにそうだった。親は子どもを叱るときには、思わず母国語の中国語になる。子どもは理解できず、日本語で反論する。大きくなると、恥ずかしがって中国語自体話さなくなる。せっかくバイリンガルになれる機会が失われてしまうことになる。
このため、東京には、中国語の子供に中国語と日本語を教える学校が生まれている。
東京・赤羽にある学校を訪ねたことがある。マンションの1室の居間にに、座り机を並べただけだ。大連出身の年配の女性が、1カ月5000円で毎日1時間教えている。ちょうど高校生らしき生徒が「?好」と大きな声で挨拶して入ってきた。
個人レッスンの場合は1時間3000円だ。英語に比べたら高くないと言えるが、中には中国語をいやがる子供もいる。
「そういう子は少なくないけれど、ちゃんとノウハウがある。興味深く学べるように工夫する」と先生はいう。
こういう子供は、実は大変な潜在的能力を持っているはずだ。中国語の複雑な発音にも耳が慣れている。彼らの能力を引き出す教育が日本の公教育にあればいいと思う。


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家庭の母親を生かす

子供は外国語の習得が早い。問題は母親だ。育児のために家に閉じこもりになることが多く、日本語を学ぶ機会も多くない。学校に通うのも簡単ではない。
たちまち日本語を習得した子供に対して、母親は日本語が不自由という逆転現象が起きるのは一般的なことだ。行政やNPOの支援が大切になる。
総務省は2006年に多文化共生プログラムを発表した。その第一項に?外国人住民に対して、多言語による行政・生活情報の提供や生活相談のための窓口の設置、通訳ボランティアの育成等を行う?外国人住民に対して、地域生活開始時にオリエンテーションを実施して行政情報や日本社会の習慣等について学習する機会を提供する。その後も継続して日本語・日本社会を学習するための機会を提供するーと求めている。
これを受けて多くの自治体で日本語支援の動きが広まっている。先進的な取り組みを行っている自治体も増えている。
群馬県の太田市、大泉町の場合、ブラジルから来た人が多いため、役所の窓口ではポルトガル、スペインを含め4カ国語で対応できる体制ができている。神奈川県川崎市は広報資料を最大で14カ国語に翻訳して提供している。千葉県はネット上に「ちば医療ネット」を開設し、医療機関を英語、中国語、韓国語で検索できるようになっている。長野県は、県内各地に親と子の日本語教室を開いている。
こういった支援に加え、韓国のようなトータルな生活支援や、技能教育ができれば、女性たちの能力はさらに引き出せるのではないか。


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