第2章 花嫁はどうして来るのか[1]

@筆者:五味洋治プロフィール [ 2011年 6月 5日 ]

花嫁はどうして来るのか

これまで、国際結婚の変遷や、日本の男性の事情を書いてきた。それでは、なぜ中国をはじめとする外国人の女性が日本に嫁いでくるのか、どんな地域の人が多いのかまとめてみることにする。
日本男性が中国や日本で、中国人女性と自由恋愛で職場結婚した場合、もちろん女性側の出身地は南から北までまちまちになる。これは当然だろう。
しかし、結婚紹介業者が間に入った場合は、多くが東北部の農村出身の女性である。なぜ農村出身の女性が、簡単ではない海外行きを選ぶのか。
その答えを教えてくれる調査がある。「家族社会学研究」という学術雑誌の2007年10月号に、「中国人女性の周辺化と結婚移住」というタイトルの記事だ。筆者は現・名城大学講師の賽漢卓娜(サイハン・ジュナ)さんだ。
この論文は、中国人女性がどうして国際結婚を選んだのか、その背景を探っている。
インタビューした日本在住の中国人女性は22人だが、長い間人間関係を築いてインタビューしたと書いてある。男性の私にはできないことである。この論文を抜粋させてもらう。
国際結婚を選択した理由は(1)経済中国の農村では、収入が一定せず、家族を養えない。さらに「農業戸籍」のままでは、都会に出ても医療、福祉などの恩恵は受けられない。
(2)伝統的な女性蔑視女の子は働き手として劣るため、商品として嫁に出し、自分の家の安定に役立てる。
(3)農村出身の女性は、都市部での単純労働に従事するケースが多い。配偶者探しが難しく、国際結婚するケースが生まれる。
(4)旧満州に当たる中国東北部は日本に対する情報が不足している。先に結婚した中国人がもたらす一方的な情報が拡大、誇張され、若い中国人女性が憧れを強めるーという分析である。
そこで「人生を選び直す最善の選択」として国際結婚を選ぶのだ。
この4点について詳しく見ていくことにする。

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農業戸籍の問題点

国際結婚を選ぶ理由の最初に挙げられた「農業戸籍(戸口)」というのは、日本人には聞き慣れない言葉だ。ちょっと説明しておこう。
たとえばあなたが農村で生まれたとする。成長してから都会で生活したいと考えた。ところが、田舎の役所に登録されている戸籍は簡単に動かせない。もし戸籍を移さないままなら、都会に出ても正当な住民と見なされず、行政サービスが受けられないーこんなことは、日本ではありえないが、中国では現実のことである。
日本にこういう区別はないが、中国社会は歴史・伝統的に都市と地方が明確に切り離されており、戸籍も都市と農村で分けられている。農村に生まれた中国人には、農業戸籍が与えられ、簡単には変えられない。
この戸籍制度は中国政府は1958年1月に制定された「戸口登記管理条例」にさかのぼる。一元的な国民の戸口(戸籍)管理するもので、農民が都会に出てこられないよう、農民戸口の移動を禁じた。都会に多くの民衆が集まると、社会への不満が爆発し、暴動につながる恐れがあるため、強制的に農村に押し込もうという狙いである。
家族全員の生年月日、出生場所、民族、国籍等が登記記載された居民戸口簿が各家庭に発給される。三日間以上、常住登記住所を離れて外泊する場合は、滞在先の公安局(警察)に「暫住(臨時)登記」を提出しなければならない。
さらに3か月以上常住登記住所を離れる場合は、暫住登記の延長、または常住戸口の移転登記が義務付けられており、正当な理由がない場合には元の住所に戻る義務がある。守らない場合は拘束されることもある。つまり、二重三重に戸籍に縛られ、束縛から逃げることが難しい。
ただ、現実には都会で仕事を探す農民は後を絶たない。出稼ぎ農民は差別を受け、不満がたまっている。このため、最近、中国の地方都市では、農民が都市に来て都市戸籍を取得できるよう、制限を緩和するところが相次いでいる。「暫定居住証」制度を廃止した北京郊外の石河荘市のような例もある。


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金がモノを言う

この戸籍を変える方法は3つほどある。都会の大学の大学院に進学する、都会の戸籍を持つ人と結婚し、数年後に戸籍変更を申請する、もう一つは戸籍を役所から買う。いずれも簡単なことではない。
北京市の場合は、同市に投資した人には戸籍を与える制度がある。また、軍人の場合は優先的に都市戸籍が与えられる。
中国に勤務していた時、私と同年代の中国人の友人が、話すたびに「俺は北京の戸籍だ」と自慢げに話していたのを思い出す。文化大革命時に農村に送られ、十分な教育を受けられなかった彼の唯一の自慢だった。
都会に住んでいることは、それだけで特権なのだ。農村に生まれ、学歴に恵まれない女性が「農民は一生農民でいろ」といわんばかりの国家の政策から逃れるには、外国に行くのが最も早いということになる。
中国では農業、農村、農民のことを3農というが、中国では慢性的に豊作貧乏、生産不安定、農民の貧困、教育、医療の不足ーを抱えている。
豊かな生活を求めて大都会に出る人が増え、都市居住者と農民の収入の差は2005年に3・23倍になり、現在は5倍程度になっているとされる。
都市部で働く農民、いわゆる「農民工」は、建設業の79・8%、飲食業の52・6%に達している。
都市住民に比べ、賃金で3、4割の差がつけられ、失業保険、医療、年金など都市住民には当たり前の福祉も農民工は得られない。「中国の経済構造改革ー持続可能な成長を目指して」(日本経済研究センター清華大学国情研究センター著、日本経済新聞)
どれも農村の人が都市に戸籍を移せない中国独特の戸籍制度が原因となっている。これは米国の黒人差別や南アフリカの人種差別政策、インドの身分差別(カースト)制度とと変わらない性格を持ていると指摘する人もいるほどだ。
この戸籍制度は3回に分けて緩和されている。中国の国会にあたる全国人民代表会議でも討論されており、いつもはお上に逆らわない中国マスコミも、こぞって改正を求めている。
簡単ではないが、さらに戸籍制度が緩和された場合、中国の経済成長も相まって、国内に留まることを選択する人が一気に増える可能性がありそうだ。

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半辺天とは言うけれど

「半辺天」という単語は中国の女性の地位を知るには欠かせない単語だ。
これは毛沢東主席が言った言葉から取られている。つまり「天の半分は女性が支えている(婦女能頂半辺天)」の意味だ。
能という言葉が少し微妙だ。そういう能力があるがまだ実現していないというニュアンスに取れる。
「天を支える」は日本語にはない概念だが、中国では耳にする。
天?下來有我頂
天が倒れてきても私が支える、という意味で男性が女性にささやく言葉だ。
中国では「半辺天」という題名のテレビ番組があり、各界で活躍する女性が紹介されていた。
さらに3月8日は婦人節と決められており、新聞やテレビは、各界でがんばっている女性を特集する。
半辺天は、「家の奥さん」を意味することもある。「ちょっと怖いかみさん」というニュアンスだ。力の強さに対し、ちょっとした皮肉が込められていることもある。
最近ではあまりこの単語は聞かない。すでに、こう肩肘を張って女性が声を上げる時代は過ぎているのだろう。
中国の歴史上女性の地位は低かった。女性の自由を縛る纏足は有名である。
1949年に社会主義国家として新体制を建設した後は、女性に政府高官への道や離婚の自由が認められた。
統計によると、1999年現在、中国の女性就業者は就業者全体の46・5%を占め、世界平均を12ポイント上回っている。また、女性の政治参加の状況も世界的に高いレベルにある。2002年全国人民代表大会代表(日本の国会議員に当たる)の女性の割合は21%だった。日本に比べれば女性の進出は進んでいるが、完全平等ではない。
中国の女性と聞けば、すぐ思い浮かぶのが、中国の前副首相の呉儀さんだ。小泉首相との会談をドタキャンしたことでも知られる。元石油技師で、大型ダンプを運転していたこともある。
中国のメディアは彼女を「女強人」(強い女)とストレートに呼んでいた。すでにお歳は70を越えたが、今も独身で通している。
いずれにせよ中国でも、結婚生活よりも仕事を優先しないとなかなか出世ができないという証明である。


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